2019.07.01

二重管方式を採用した高靭性型SC杭の変形性能(AIJ構造系論文集2019)

本間裕介(ジャパンパイル)、浅井陽一(トーヨーアサノ)、山路麻未(トーヨーアサノ)、小梅慎平(ジャパンパイル)、阪上浩二(山下設計)

■掲載誌:日本建築学会構造系論文集 Vol.84, No.760, pp.819-829
■発行所:日本建築学会
■発 行:2019/6

 既製コンクリート杭を用いた高支持力工法が数多く開発され、杭1 本の鉛直支持力が大きい高支持力工法を採用した建築物の実績も多い。この場合、杭1 本が負担する水平力も必然的に大きくなるため、上部構造との接合部付近には、曲げ強度が高いSC 杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)を用いる事例がほとんどである。このような背景には、SC 杭はコンクリートが外殻鋼管の局部座屈を抑え、また外殻鋼管がコンクリートを拘束することから、高い曲げ強度に加え、変形性能も優れていると考えられてきたからである。
 一方、近年になって、杭基礎構造においても、大地震時を想定した二次設計を求められることも多くなってきており、大地震時のSC杭の変形性能などについて定量的に検討した研究も多数報告がされている。既往の研究1),2)では、SC 杭は外殻鋼管による拘束効果から優れた曲げ耐力を有しているが、建物のロッキング等に伴う地震時変動軸力下では、最大曲げ耐力以降の変形領域に及ぶと、コンクリートの圧壊とともに曲げ耐力が急激に低下し、靱性が乏しい傾向にあることが示されている。圧壊した内側コンクリートが遠心成形により設けられた中空部に剥落するために、急激な耐力低下が生じると指摘されている。
 このように、変形性能も優れていると考えられていたSC 杭についても、地震時変動軸力下においては、靱性が乏しい傾向であることが明らかにされてきた。現在、杭基礎構造に対しては、二次設計を行う法的な義務は課せられていないが、将来導入される杭の二次設計に向けて、ある程度の地震時変動軸力下においても変形性能を有する既製コンクリート杭の開発は急務とされる。既往の研究では、変形性能向上案として、中詰めコンクリートを充填したSC杭の変形性能についても検討がされている。中詰めコンクリートを充填することで、圧壊に伴うコンクリートの剥落を抑制し、変形性能が向上することが示されている。しかしながら、高支持力工法は、オーガースクリューで所定深度まで地盤を掘削後、セメントミルク
を注入しながら掘削土と混合撹拌し築造したソイルセメント柱に、既製コンクリート杭を建込む埋込み工法である。そのため、中空部は固結したソイルセメントで満たされることが多く、施工後に中詰めコンクリートを充填する場合、中空部に固まったソイルセメントの除去が必要となるが、作業性が非常に悪く完全に除去することは困難である。このため、中詰めコンクリートの代替え案として、施工時に中空部に満たされる固結したソイルセメントの効果についても既往の研究で検討されているが、圧壊に伴うコンクリートの剥落の抑止効果は、中詰めコンクリートより乏しいと結論付けられている。
 また、予め中空部を中詰めコンクリートで充填したSC 杭を施工に用いた場合には、建込み時に既製コンクリート杭に生じる浮力を低減させるための中空部が無くなり、施工トラブルのリスクが高まる危険性がある。このように、中詰めコンクリートをSC 杭へ充填させる場合には、中詰めコンクリートの施工方法の確立が大きな課題となる。
 そこで、筆者らは、埋込み工法に適用するために、SC 杭の内側に内鋼管を設けた二重管方式を採用した高靱性型のSC 杭(以下、WSC 杭)を考案し、高圧縮軸力および引張軸力下におけるWSC 杭の変形性能を検討する目的で一連の曲げせん断実験を行った。

Download